中小企業向け賃上げ促進税制 ~令和6年度税制改正における強化~

昨年の12月22日、「令和6年度税制改正大綱」が閣議決定されました。
同大綱では「賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担を緩和し、物価上昇を十分に超える持続的な賃上げが行われる経済の実現を目指す」ための改正が盛り込まれたものとなってます。
今回はこの大綱における「賃上げ促進税制の強化」のなかでも、とりわけ「中小企業向け賃上げ促進税制」ついて簡単にご説明します。

中小企業向け賃上げ促進税制とは

まず、中小企業賃上げ促進税制について説明いたします。

中小企業向け賃上げ促進税制とは、中小企業者等が、前年度より給与等を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から控除できる制度です。

ここでいう中小企業者等とは、青色申告書を提出する者のうち、以下に該当するものを指します。

  1. 以下のいずれかに該当する法人 (ただし、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人は本税制適用の対象外)
    ①資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人※1
    ②資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
  2. 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
  3. 協同組合等(中小企業等協同組合、出資組合である商工組合等※2)

※1 ただし、以下の法人は対象外 ・同一の大規模法人(資本金の額若しくは出資金の額が1億円超の法人、資本若しくは 出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人超の法人又は大法人(資本 金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等)との間に当該大法人による完全支配 関係がある法人等をいい、中小企業投資育成株式会社を除きます。)から2分の1以上の出資を受ける法人・2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人

※2 協同組合等に含まれる組合は、農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合、出資組合である商工組合及び商工組合連合会、内航海運組合、内航海運組合連合会、出資 組合である生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、 水産加工業協同組合連合会、森林組合並びに森林組合連合会です。

また給与等とは

俸給・給料・賃金・歳費及び賞与並びに、これらの性質を有する給与
(所得税法第28条第1項 に規定する給与等)

をさします。

この中小企業者等が、給与等を一定の要件を満たす形で引き上げることで、税額控除を受けることができます

要件

要件には通常要件と上乗せ要件があります。

  • 通常要件・・・給与等の支給額が前年度比で1.5%以上増加

この通常要件を満たすことで

給与等支給増加額の15%を法人税額又は所得税額から控除することができます。
(ただし、控除額は、法人税額又は所得税額の20%が上限となります。)

例えば前年度5,000万円給与等を支払っていた企業が、本年度5,100万円給与等を支払った場合

5,000万(前年度の給与等の額) × 101.5% = 5,075万 < 5100万(本年度給与等の額)
となるため控除を受けることができ、
控除額は

(5,100万-5,000万) × 15% = 5万円

となります。

  • 上乗せ要件1・・・給与などの支給額が前年度比で2.5%以上増加

さらに給与等の支給額増加分が2.5%を超えた場合、控除率は通常要件の15%に加え、さらに15%上乗せされた30%が控除対象となります。
(ただし、こちらも控除額は、法人税額又は所得税額の20%が上限となります。)

例えば5,000万円給与等を支払っていた企業が、本年度5,200万円給与等を支払った場合

5,000万×102.5% = 5,125万 < 5200万 となるため上乗せされることとなり、
控除額は

(5,200万-5,000万) × 30% = 60万円

となります。

  • 上乗せ要件2・・・教育訓練費が前年度比で10%以上増加

従業員の教育訓練に使う費用が、前年度より10%以上増加している場合、控除率が10%上乗せされます。

したがって、通常要件に加え教育訓練費の要件も満たしている場合は控除率が25%、前述の「上乗せ要件1」を満たしたうえで、教育訓練費の要件も満たした場合の控除率は40%となります。
(ただし、こちらも控除額は、法人税額又は所得税額の20%が上限となります。また対象となる教育訓練の対象者や養育訓練の内容には条件があります)

このように全ての要件を満たす場合、給与等の増加額の最大40%の控除が受けられる制度が「中小企業賃上げ促進税制」です。

<参考>経済産業省『中小企業向け 賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック

令和6年度税制改正における強化

では今回の令和6年の税制改正でどのように変わるのかを説明いたします。

① 教育訓練費の上乗せ要件の緩和

前記の「上乗せ要件2」にあたる教育訓練費の増加の要件ですが、
こちらは、前年度比+10%から前年度比+5%に引き下げられました。

なお上乗せの控除率は変らず10%です。

② 子育てとの両立・女性活躍支援要件の新設

上乗せ要件として新たに「子育てとの両立・女性活躍支援要件」が新設されました。

こちらは「くるみん」以上※3もしくは「えるぼし」※4の二段階目以上のいずれかの認定をえることで控除率が5%上乗せされます。

したがって全ての要件を満たした場合の最大控除率は45%となります。

※3 くるみんとは…行動計画を策定し、その行動計画に定めた目標を達成するなどの 一定の要件を満たした場合、必要書類を添えて申請を行うことにより、 「子育てサポート企業」として厚生労働大臣より受けられる認定。

※4 女性活躍推進法に基づき、一般事業主行動計画の策定・届出等を行った事業主のうち、女性の活 躍推進に関する取組の実施状況が優良である等の一定の要件を満たした事業主が、都道府県労 働局への申請により、厚生労働大臣より受けられる認定

③ 賃上げを実施しなかった年度に控除しきれなかった金額の5年間の繰越しが可能に

要件を満たす賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額の5年間の繰越しが可能となります。

ただし、繰越し税額控除をする事業年度の支給額が、前年度の支給額を上回る必要があります。

<参考>経済産業省『「賃上げ促進税制」パンフレット

まとめ

今回の記事では「中小企業向け賃上げ促進税制」に焦点を当てて説明しましたが、今回の大綱において、賃上げ促進税制は、これまでの「大企業向け」「中小企業向け」の区分に加え「中堅企業向け」という区分が新設されるなどさまざな変更がされることとなります。

賃上げや社員教育の充実は品質・生産性の向上や人材定着にもつながります。
より強化される賃上げ促進税制を活用し、自社の成長を図ってみてはいかがでしょうか。

BESO 吉川 昌宏

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