急拡大する事業における中小企業の資金繰りを管理するには

企業は、急速に事業拡大が進むと、資金管理が非常に重要になってきます。事業成長は多くの機会をもたらしますが、それに伴う資金の流れを適切に管理しなければ、その成長の持続性さらには、企業の存続は可能ではありません。
ここでは、事業の急拡大に伴う資金繰りの課題に焦点を当て、その効果的な管理方法について説明しますのでご覧ください。

資金繰りとキャッシュフローの違い

資金繰りとキャッシュフローは同じような意味合いと捉えられ混同されがちですが、実際には考え方は異なります。一般的に、資金繰りは、将来的な現金の流入と流出を把握し、日々の運転資金の必要量や資金の必要なタイミングなどを明確化します。一方、キャッシュフローは、過去から現在にかけた長期的な財務状態を示し、企業の収益性や資金の健全性を評価するために使用されます。
どちらも、重要な指標となりますが活用される場面は必要に応じて異なります。

資金繰り表

主に将来の資金の流れを予測するために使用されます。これは、現在から見た企業の短期間(通常は数日から数ヶ月)の資金の出入りを予測し、将来の特定の時点での資金の残高を推計することに焦点を置いています。そのため、資金繰り表は、将来の資金不足を予測し、それに対処するための計画を立てるのに役立ちます。

キャッシュフロー表

過去の一定期間(通常は四半期や年)の資金の流れを分析することに焦点を置いています。これにより、企業がどのように資金を調達し、運用してきたかを理解することができます。キャッシュフロー表は、企業の営業、投資、財務活動を通じての資金の流れを示し、過去の資金管理の効果を評価するのに役立ちます。

企業の財務状況と健全性を理解するために使用され、特に投資家や金融機関にとって、企業の長期的な財務戦略とパフォーマンスを評価する際に重要となる書類です。

このように、資金繰り表とキャッシュフロー表は、時間的視点と目的が異なるため、企業の財務分析において異なる役割を果たします。資金繰り表は将来の資金の流れを見据え、キャッシュフロー表は過去から現在までの資金の流れを分析することで、それぞれ企業の財務健全性を異なる角度から評価することができます。

急拡大に伴う資金繰りの悪化の原因

企業が事業を急拡大するとき、資金繰りが悪化することは多くあります。売上は右肩あがりに上がっているのに手元には現金がない。。そのような原因の多くは以下に集約されます。

売掛金の増加:

急激な売上の増加にもかかわらず、回収が遅れると資金が不足します。これにより、運転資金に空白が生じ、資金繰りに支障をきたします。

運転資金・在庫の増加:

急速な事業拡大には、在庫や人件費などの運転資金が大量に必要となります。これらの費用は売上が上がる前に先行して支払う必要があるため、資金繰りに負担をかけることがあります。

設備投資に伴う固定費の増加:

新たな設備投資や拠点の拡張など、事業の拡大には大規模な初期投資が必要です。これら固定費の増加は資金繰りを圧迫します。

入金と支払いのタイミングの違い:

事業拡大に伴い、売掛金の入金サイクルと買掛金や人件費などの支払いサイクルにずれが生じることがあります。売掛金が期待通りに回収できない場合や、入金のサイクルより支払いのサイクルが早い場合、資金繰りは悪化します。
例えば、売掛金は90日後に回収されるが、仕入れや人件費は30日ごとに支払う必要がある場合、この60日間の資金繰りギャップを埋める必要があります。

これらの問題に対処するためには、慎重な資金管理、キャッシュフローの計画、効率的な在庫管理、迅速な売掛金の回収などが重要です。また、金融機関との良好な関係を築き、必要に応じて資金調達を行うことも有効な手段となります。

資金繰りを改善する方法

このように、事業が急拡大することによる資金繰りは悪化する場合があります。それでは資金繰りを改善するにはどのような方法があるのでしょうか?次からは資金繰りの問題を改善するための方法はいくつかあるのでご紹介します。

予実管理の徹底:

収入と支出の把握を行い、予算管理することが重要となります。さらに定期的にキャッシュフロー予測を行い、将来の収入と支出の把握をすることで資金状況を正確に把握する。
また短期・中期・長期の各期間でキャッシュフロー計画を策定し、常に資金状況を見直すことが必要となります。

在庫管理の最適化:

在庫を過剰に抱えないように管理することで、不必要な資金の拘束を防ぐ。
JIT(ジャストインタイム)システムなど、効率的な在庫管理手法の導入を検討する。

売掛金の迅速な回収:

顧客に対する信用調査を実施し、信用できる顧客との取引を優先する。
回収条件を短縮や、早期支払い割引などの取引条件を提供し、早期に売掛金を回収する。

支払い条件の見直し:

仕入先との交渉を通じて、支払い条件を延長する。
現金支払いによる割引などを利用し、支出を減らす。
コスト管理と削減:
固定費や変動費を定期的に見直し、無駄な支出を削減する。
効率的な生産プロセスやコスト削減に繋がる技術の導入を検討する。

外部からの資金調達:

自己資金だけではなく銀行融資、リースやファクタリング、公的融資制度など、さまざまな資金調達手段を検討する。
必要に応じて投資家からの資金調達も検討する。

これらの方法を適切に組み合わせて実施することで、資金繰りの問題を効果的に解決することができます。
常に現金流動性を保ち、未来の収益と支出を見据えた計画的な資金管理を行うことが重要となります。

資金調達の選択肢

資金繰りの改善方法としては、外部からの資金調達でまかなう企業が多くあります。

ここでは、資金調達の選択肢としてどのようなものがあるかをまとめました。
それぞれに長所短所があるため、どの方法を選択するかひとつの参考としてみてください。

銀行融資:

一般的で信頼性が高い。
比較的低金利で長期融資可能。
信用情報に基づく融資で、返済義務がある。

政府補助金・助成金:

無償の資金提供。
返済不要だが、申請し採択される必要がある。
準備までに手間がかかり、後払いの意味合いが強く時間がかかる。

クラウドファンディング:

オンラインを通じて広範な個人や企業から資金を集める。
低コストで、新規顧客やサポーターを獲得できる。
目標額に達しないリスクがある。

ベンチャーキャピタル:

返済義務はない。
上場を行うことが前提で大規模な資金調達が可能。
ベンチャーキャピタルの経営方針に従う必要がある。

エンジェル投資:

個人投資家からの資金提供。
小規模で、事業アドバイスが得られる可能性がある。
投資家との良好な関係が重要。

リース・ファクタリング:

設備投資のリースを活用する。
売掛金の早期現金化をおこなう。
手数料や利息がかかるため総コストとしては高くなる可能性がある。

これらの選択肢は、それぞれ異なる特徴とメリット、リスクを持ちます。ご自身のニーズと状況に合わせて、最適な資金調達方法を選ぶことが重要となります。

資金繰り表の作成の重要性

経営の健全性、特に資金管理の質を保つための重要なツールが資金繰り表です。ここでは、資金繰り表の活用方法ついて説明します。

資金繰り表の役割

現金フローの可視化:

資金繰り表は、特定期間内の現金の流入と流出を明確に示します。これにより、企業は現金の余剰または不足を予測し、それに応じた計画を立てることができます。

予算計画との整合性の確認:

予算計画と実際の資金の流れを比較することで、企業は経営計画の実行状況を評価し、必要に応じて調整を行うことができます。

リスク管理:

資金繰り表を通じて、資金の流れの問題を早期に特定することができます。これにより、資金不足によるリスクを未然に防ぐことが可能となります。

資金調達の戦略策定:

資金繰りの分析を基に、企業は必要な資金調達のタイミングと方法を決定できます。

投資者や金融機関への信頼性の向上:

資金繰り表は、企業が財務をしっかり管理していることを示す証拠となり、投資家や金融機関からの信頼を得るのに役立ちます。

資金繰り表の作成方法

期間の設定:

資金繰り表を作成する期間を決定します。通常、月単位で作成することが多いですが、週単位や四半期単位で作成することもあります。

初期残高の記入

期間の初めの現金預金の残高を記入します。

収入の予測:

その期間内に入る予定の全ての収入を記録します。これには売上金、外部からの調達資金、その他の収入などが含まれます。

支出の予測:

期間内の予定されている全ての支出を記録します。人件費、購入費、経費、借入金の返済などが含まれます。

期末残高の計算:

初期残高に収入の予測と支出の予測を加減算して、期間末の現金残高を求めます。

予測と実績の比較:

実際の数値が入手できたら、予測と比較し、差異の原因を分析します。

まとめ

資金繰り表の作成は、企業の財務健全性を維持し、リスクを管理する上で必要不可欠です。
とくに、事業が急拡大しているときは、資金繰りの課題が浮き彫りになる可能性があります。

これらの課題に効果的に対応し、リスクを管理するためには、まずは資金繰りとキャッシュフローの違いを理解することが重要となります。そこから原因を特定し、適切な対応策を講じる必要があります。

また、資金調達という方法を選択することで計画的に資金を確保することができますが、自社のニーズに沿ったものを慎重に選択する必要があります。

これらの要素をバランス良く取り入れることは、企業の健全な成長と持続可能な事業運営に不可欠となります。

企業にとって効果的な意思決定を可能とするのは、適切な資金繰り表を用いることで、現金のフローを管理することにより、長期的な成功へと導くことができるでしょう。

BESO 仲田 芽衣

地域経済・日本経済が大きく発展するようスタートアップ企業をサポートし、会計業界の常識を覆し魅力的な業界にすることに注力していきます!

X(旧Twitter): @MeiNakata

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